サロン案内

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 レインボー (18)

 

 

『ここのところひんぱんに、妹が向こうの情報をいろいろ調べて、メールで送ってくれます・・・』

みちるさんからそう、僕宛てにメールが届いた。 妹のみのるさんはイギリスに帰って、また父親の元でハイスクールに通っている。

『以前銀林くんが話してくれたように、イギリスでは花やハーブといった植物は生活の大切な一部分で、人々はそれをいろいろな形で上手に暮らしの中に役立てているのですが、それはまた病院などでも利用されていて、日本ではもうおなじみのアロマセラピー用のエッセンシャルオイルや、あなたからいただいた、花の波動を水に転写させたフラワーエッセンスなども、患者さんの心のケアや、実際の現場の治療にも使われているほどだそうです。

人々は自然から得るものをとても大切に考えていて、受け継がれてきたもの、また新たに人の英知となったものも、今の技術の中で大きく貢献、発展しているようです』

 

数日後、みちるさんから、年明け前に退院できるといううれしい知らせの電話があった。 週に一度、彼女に堂々と会える口実がなくなるが、僕も受験の追い込みだ。

「ひとりで自由に行動できるようになったら、夏休みにフィンドホーンに行ってみようと思ってるの。 妹も一緒に行くと言ってるのよ。 いろいろ調べているうちに、自分も興味がわいてきたみたい」

電話の向こうでそう言って、彼女は笑った。 弾むような声からは、彼女が新しい希望にあふれているのがわかる。

「銀林くんが持ってきてくれた花の写真集にのっていた風景のような、丘いっぱいに花の色で描かれた虹も見たいの。 だからあの場所にも、花を訪ねる旅をしようと思っているのよ」

 

 

なんだか喜びの興奮覚めやらなくて、コートを着て夜の散歩に出た。

僕には僕の目標がある。 まずはその目指す目標のスタートラインに立てる事。 そして、古くて新しい様々な方法も取り入れて、訪れる人の痛みをできるだけやわらげてあげられるようなケアをする事。

体が痛めば心が痛む。 だから全体でその人を考えて支えたい。 そんな医療がしたい。 それが今の、僕の夢になった。

ひとりでもできる事から始めたらいい。 難しく考えることじゃないさ。 歩きながら僕は口笛を吹いてみた。

 

 

自分の部屋に戻って来た。 暖房を付けもう一度キッチンに下りて、紅茶の入ったティーポットとふたり分のカップを持って来る。 ついでに缶入りのクッキーも。

窓辺にクリスタルを置こうと思ったら、もうそこにスイがいた。

「おっ、いらっしゃい。 早かったね」

僕の言葉に、お茶目な笑顔でうなずいた。

 

お茶を飲み、マーブル模様のクッキーを食べながら、スイはいつになくおしゃべりだった。 同じ妖精仲間のブラウニーが、油断していると知らない間に後ろにいて、いたずらにわたしの髪をひっぱるだとか、自分が大事にしていた真珠の珠を、パックにとられただとか。

「パックになんて見せてあげるんじゃなかったわ。 返してって言っても知らんぷり」

そう言って口をとんがらせていた。

 

スイにはスイの世界があるのだった。これから先もそこで、彼女の言う『学び』をしながら、きっとまた、どこかで誰かを助けるのだろう・・・。

 

何がどう今までと変化したのかわからなかったが、僕はひとつの・・・寂しい予感を感じていた。

「じゃあ、きょうはこのへんで失礼するわね」

スイの言い方は、僕たちの関係に「またあした」 があるようだった。

「もちろん、また会えるよね?」

思わず口をついて出た僕のその問いに、スイは笑って、

「当たり前じゃない」

と言った。 そして、耳元まで飛んできてささやいた。

「また、お茶とお菓子でおしゃべりしましょう」

そう言って、僕の頬にひとつ小さな口づけをした。

 

そして彼女は、出会った時のように笑顔で手を振って、金色の光の輪の中にかき消えるように見えなくなった。

ふと窓辺を見ると、置いてあったはずのクリスタルが無くなっていた。

 

 

 

次にめぐって来る春、花の季節に、きっとあの小さな彼女に良い報告ができるように、受験に全力をつくそう。

窓を思いきり開け、身を乗り出して空を眺めた。 静かな夜、濃紺の澄んだ空に月がこうこうと輝いている。 吐く息が白く凍って霧になる。

 

 

春・・・いつかめぐり来る人生の春に、僕は彼女にもらった種を、今度は自分の中に咲かせなくては。 そしてその花を、たくさんの人たちに届ける事ができるように。